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HsbtDiary


2022/12/07 (水) [長年日記]

技術広報とは何か、について自分なりのまとめ

これは 技術広報アドベンドカレンダー 7日目の記事です。

所属しているアンドパッドでの仕事では Ruby の開発をフルタイムに行う、と言うことを担当としていますが、サブとして技術広報も担当しているので改めて技術広報の活動とは何か、について自問自答をしたり、ブランド関連の本を数冊読んで理解した内容をまとめておきます。自分向けのやっていき宣言です。


技術広報は技術ブランディングを担う役職である

広報とはよくパブリックリレーション(PR)とも言われますが、パブリックリレーションは基本的に1方向のメッセージであるマーケティングとは異なり、メッセージを伝えたい対象と自分たちの間でコミュニケーションの計画をたて、何をどう伝えるか、結果として何を得るか、を考え、実行することが求められます。

すなわち、技術広報とは、ある組織が保有する技術、または技術を構成するエンジニアの集合、エンジニア組織をメッセージに伝えたい対象に対して、上記のような何を伝えて、何を得るか、を考え実行するのが仕事と定義することができます。

ブランドは複利である

技術広報の仕事を上記のように定義する場合、重要となるのが技術ブランドとそのブランドビジョンです。会社活動においてブランドは、売上や利益をはじめとする経済的な結果から、会社それぞれが持つビジョンの達成やミッションへの共感など、ブランドを活用することでそれらは複利として働きます。

  • お願いしているわけでもないのに、自社の活動を SNS で拡散してくれる。
  • 新しい商品やサービスを提供した際に「あの会社の商品なら買ってみよう」と動いてくれる。

上記はブランドによる複利としてのわかりやすい例ですが、ブランドはマイナスイメージと呼ばれるような負債にもなりえます。

ここまでの整理で、技術広報にとってのアウトカムは自社の技術組織について、複利として効用するような技術ブランドを確立すると理解しました。そのためには、自社の技術領域における、ブランドビジョンを決め、ブランドビジョンの達成のためにイベントの開催や企画、各種情報のコミュニケーションを行う必要があります。

ここで注意したいのは、まず自分たちが伝えたい技術ブランドがあった上で、アクションを取ると言うことで、伝えたいメッセージがないままアクションのみを実行し続けることはPRとはいえません。なお、このブランドは複利である、という考え方はブランディングモンスターの @kotarok の話をベースにしています。

技術ブランドのコンセプトを策定する

ブランドを作るにあたっては社内外の環境についてマクロ、ミクロ分析、SWOT 分析など多岐にわたって上で決めるなどさまざまな手法がありますが詳細についてはブランドマネジメント入門に書いてあるのでここでは省略します。なお、この書籍にはワークブックが多数用意されており、それらについて現状を埋めるだけでも十分な分析になると感じました。

ブランドコンセプトは会社における、ビジョン、ミッション、バリューのお馴染みの組み合わせに加えて、パーソナリティ、ステートメントなどの作成などです。ここで注意すべきはブランドコンセプトは会社そのもののビジョンやミッションなどとの整合性を確保し包含関係を明らかにする必要があります。会社のバリューとは関連がないブランドバリューを作成しても策定メンバー以外への浸透は難しいでしょう。

また、採用広報と技術広報、DevRel と技術広報は何が異なるのか、という疑問もよく聞きます。採用広報がエンジニアの採用を目的とするならば、技術広報による技術ブランドの確立を人材または組織の何かしらのビジョンやミッションに置き換えてコンセプトを策定し、実行することが技術広報と異なる点と思います。同様にDevRel の場合は対象が自社をプラットフォームとして関わる技術者が対象と読み替えても良いと思います。

いずれにしても、これらはグラデーションを持って相互に補完し合う関係のため、あくまでもビジョンをどこに置くか、という違いでしかないと個人的には思います。

技術ブランドのビジョンと社内外のギャップを調査する

ブランドコンセプトを決めたのちにアクションを実行することになりますが、アクションの対象として社内外の組織におけるギャップ抽出が重要です。社外だけに目を向けてアクションを行うことも可能ですが、ステークホルダ全員で実行しなければブランドビジョンの達成は困難となるでしょう。

例えばビジョンの一つに「かっこいいエンジニア組織にする」のような内容があったとして、

  • エンジニア組織の中で誰もが「自分たちがかっこいい」と思えているか
  • 会社組織のエンジニア組織以外で「エンジニア組織はかっこいい」と思われているか
  • 会社組織の外全体で「エンジニア組織がかっこいい」と思われているか

のいずれにも実態はどうであるかをリサーチし、ギャップがあれば埋めるためのアクションを講じる必要があります。技術広報、技術戦略、テクニカルプログラムマネージャ、と呼ばれる組織の人たちが、社内勉強会などの社内イベントも企画しているのは前者の2つのギャップ対策またはブランドビジョンの維持を行う活動のためです。

技術ブランドを伝え、成果を確認する

ここまで準備できたらあとはブランドコンセプトをもとに社内外へのコミュニケーションを行っていきます。商品などのブランディングの世界では VI(Vusual Identity)やトンマナ(トーン&マナー)など、主にビジュアル面での約束事をきめ、コミュニケーションの際にはそれらに準拠した上で一貫した内容にすることが求められます。

技術ブランドについても同様に会社が有する VI に準拠するだけではなく、技術ブランドのコンセプトに従った語彙やイベント、テックブログの視覚的なデザイン、ブースにおける技術の伝え方、ノベルティの作成などを一貫させる必要があります。

その結果としてリサーチなどから得られる「あの会社のエンジニアは楽しそう」「あの会社のエンジニアはレビューをしっかりやってそう」「プロダクトをすごい速度で作ってそう」をもとに、ギャップ調査とアクションを反復しながら、自分たちが望むブランドビジョンの達成のために計画と分析、アクションと検証を重ねていくのが技術広報という仕事です。


と、ここまで書いた上でアンドパッドでどうやっていくんですか!!1という具体的な話については特になくて、11月は https://ossan.fm/episode/217 で話した通り、 Rubyのメールサーバーのことしかやってないんですよね...。ダーッと数冊読んで理解したことを経験をミックスさせて文字でだけ書きましたが、もう少し深掘りしたいとか喋りたいという人はイベントとか podcast に呼んでください。僕も勉強したいです。


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